海岸線と暮らしが親密な関係を築く
三浦半島の景勝地「秋谷」
▲三浦半島の西側、相模湾に面した「秋谷」の街。小さな漁港が連なる穏やかなエリアで、セカンドハウスや隠れ家風飲食店などが点在している。海に立つ巨岩「立石」は絶景スポットとして有名。
「秋谷」へは、都心から1時間程度でアクセスできます。車だとすぐですよ。観光客で賑わう逗子・鎌倉エリアとは少し空気感が違っていて、のんびりとしたローカルさを楽しめる場所です。目の前に広がる「秋谷海岸」も、観光客というより地元の人たちがプライベートに楽しんでいるような印象で。リノベーションを手掛けるにあたって、そういった海岸沿いの街の親密な雰囲気を活かしたいと思いました。
物件は角部屋で、リビングで正面を向くと相模湾が、右を向くと「秋谷海岸」の海岸線が見えるんです。海と地上の境界線がずっと奥まで続いていって、その先に富士山が見える。窓から海が見える物件はそれなりにありますが、これだけの地形の美しさを眺められる家というのはなかなか無い。すごいな、と思いましたね。
最初にリノベーション前の空間を見たとき、ここの地理的特徴を活かしきれてないような気がしたんです。特別な場所にありながら、他と同じような内装の仕上げがされているのが勿体ないなって。せっかくここに住まいを持つのなら、できるだけ一般的なマンション住宅らしい要素は払拭して、普段とは違う感覚で、目の前の風景やアートを眺められるようにしたい 。そのために、極力内装はシンプルにする必要があると考えました。入ってくるとアートが際立つ、家具が際立つ、景色が際立つ。目指したのはそんな空間です。
設計の方針としては、ギャラリーのようなイメージの開放的な空間をつくり、その先にあるビューを最大限活かすのがいいんじゃないかと考えました。
そのために大切なのは、この風景をもっとも美しく切り取れるような開口部(窓)です。借景をより完全にするために、窓まわりのデザインというものに注力したんですね。細かい話なんですが、一般的なマンションで見られるようにサッシを普通に取り付けているだけだと、建物の制約上どうしても周囲に凹凸ができて、ガタガタした印象になってしまう 。そういったところをスッキリさせるために、窓まわりの壁をふかして奥行きをつけて、外の風景が鮮やかに切り取られて見えるようにしました。
ノイズを取り去って感覚をひらく
やはり、水着で出て行って水着で帰ってこられる “海との近さ” っていうのがここの大きな特徴であり、魅力なので。水着で過ごしても居心地がいいよう、リビングや廊下の足元はウェットな状態に強いタイルを採用しています。
▲フラットに仕上げられた壁面が端正な印象を与える、通路部分。そしてギャラリーのような廊下を抜けた先には、海の景色が広がる。
さらに廊下では、基本的な構成は変えずに既存を活かしつつ『ひとつのマテリアルで統一する』ということをやったんです。黒い木を貼り重ねることで扉の多さや蝶番などを隠して、全体をひとつの壁として滑らかに見せるようにしました。シンプルな見え方にしたくて、扉の枠と壁の収まり具合などには結構こだわりましたね。オーナーさんがアート好きな方だったので、この通路自体が作品の展示空間として機能するようにしたい、という狙いもありました。
▲バスルームから見える海岸線が風景画のよう。
あとはバスルームですね。ふたつあったトイレをひとつに変更し、そのスペースを使って在来工法の広々とした浴室空間に造り替えています。やっぱり海から家に入ってきた時に、バスルームや脱衣スペースはできるだけゆったりしていた方が過ごしやすい。さらに洗面エリアとの境界はガラス張りで仕上げて、内と外との一体感・開放感を得られるようにしました。
この住まいを選ぶ人に何より実感してほしいのは、リビングで感じる風景との特別な一体感です。景色をただ眺めて過ごすというよりは、室内にいながら風景に没入するような……海や景色と一体となって暮らす感覚です。そもそもは『このビューを活かして素晴らしい借景にしよう』というコンセプトのリノベーションだったのですが、出来上がった空間には “借景以上のもの” があると感じていて。それはとても豊かなものだと思うんです。
もう、すぐ目の前の海でSUPをやっている人とかもいるんですよね。大人数で過ごす時は、仲間に子どもを任せて室内から遊ぶ姿を眺めることもできますし。本当に海の延長上にある住まいなので、オンオフの境界を軽やかに飛び越えられるような、ボーダレスな環境だとも言えるんじゃないでしょうか。自然をすぐそばに感じながら働きたい人や、自然を身体中で楽しみたい人に、この住まいが届いてほしいと願っています。
『こっから』チャレンジしたいこと
設計をしていると馴染みの場所は自然と増えていくんですが、“育む感覚” は持ちづらくて。なので、今後は3拠点くらいに住処(すみか)を手に入れて、釣りをしながら、暮らしながら、ローテーションしながらデザインをしていきたいですね。まずは拠点を探します。