街のビジョン『めぶく。』とともに 歩き始めたプロジェクト
「前橋市」は群馬の県庁所在地であり、人口は約33万人です。次第に衰退していく街をなんとかしたいと、2016年に田中仁さんの財団が主導して糸井重里さん(前橋出身)らの協力により、街の新たなビジョン『めぶく。』が策定されました。

▲ビジョン発表会の様子
『めぶく。』には元々住んでいる人たちに何かを芽吹かせる、前橋を拠点にチャレンジしたい人を芽吹かせるなど様々なメッセージが込められており、そのきっかけとしてアートやデザインなど創造的な手法を軸に据えることとしました。
最近では300年の歴史をもつ老舗旅館を蘇らせた「白井屋ホテル」(設計:藤本壮介)が話題となりましたが、こちらも街のビジョンに基づき歩んでいるプロジェクトです。

▲右手が「まえばしガレリア」の敷地(当時は活動写真館だった)/ 写真:萩原朔太郎撮影(大正時代)
この 400 坪ほどの土地は、かつて映画館やスーパーがあり、周辺はアパレルショップや喫茶店がある賑やかな場所でした。広場となったあとは地域の催事などを行う場所として親しまれてきましたが、バブルがはじけると周囲が繁華街化していきました。
土地を前橋市から民間に引き渡して有効活用してもらおうということになり、行政・商店街・私を含む市民有志の3者で『どういう建物がビジョンに合致しているか』という議論を重ね、紆余曲折を経て完成を迎えることができたんです。
新しい価値を創造する人々が 集い、語らい、暮らす場所
建物のコンセプトはJTQ株式会社の谷川じゅんじさんがまとめてくださったものです。当初から、この建築をきっかけに前橋市の定住人口を増やすというより、関係人口を増やしたいと思っていました。
地方都市のチャレンジを応援してくれる仲間を全国から募るイメージです。

これはリチャード・フロリダの「クリエイティブシティ」という本の中に書かれている『都市が再生するにはクリエイティブクラスの人材(創造的な暮らしを求める人たち)を都市に集める必要がある』という一説に習っています。
例えば、事業に成功された富裕層の方々は新しいことを求める好奇心・欲求が旺盛です。ここに拠点を持つことによって “たまに遊びに行こうか” “前橋が気になる” と思っていただけるようになる。
次第に “前橋にお店を出そうか” “若い人を応援しようか” という想いが芽吹き、良い循環が生まれるに違いないと思ったんです。

▲レジデンス部分、住戸の一例
実は、全26戸のうち24戸は情報をオープンにせず、ほぼクローズドで次々オーナーが決まっていきました。街のビジョンに共感していただけた方からまた次の方へと伝播していったんです。
現在では街で起きていることをオーナーの皆さまに共有する機会をつくって、前橋とのつながりを感じていただけるようアクションを起こしています。
アート、食、新しい暮らしが 建築の中を縫うように介入する
設計は平田晃久さんに依頼しました。『建物全体を大きな樹冠を持つ一本の樹として、その下に集う人々の自由な活動に満ちた場所にする』というコンセプトです。
1階にはふたつのアートギャラリーが入居し、展示替えを行う2ヶ月ごとに全国からコレクターの方々が集まります。

▲夜、ギャラリーの灯りが街に浮かぶ
一方で街にひらくために24時間明かりを灯し、幼稚園のお散歩コースになっていたり、ご年配の方々がふらっと訪れる場所になっていたりと、地元の方々にとってもアートに触れるきっかけの場所となっています。
また、三つ星レストランで経験を積んだ若手シェフが、同じく1階にフレンチレストランをオープンしました。彼もここ、前橋でチャレンジしようと思ってやって来たひとりです。


▲左・建物内にはふたつのギャラリーが存在する/ 右・レストラン「cépages(セパージュ)」
レジデンス部分は、各住戸に大きなテラスが付いた開放的な造りになっています。建物のヴォイド部分を縫うように街の空気や匂いが入り込み、それらと共生している状態です。室内を走る斜めの壁は不思議な奥行き感をもたらし、アートを飾る展示壁にもなっています。

分譲にはチャレンジを応援する人を 賃貸にはチャレンジする人を募りたい
実は、ここに定住している方はほんのわずかです。セカンドハウスのように所有しているオーナーがほとんど。ふらっと前橋を訪れたくなったときに泊まる場所として、また万が一災害が起きた時の避難地として捉えている方が多いですね。ただそうすると、長期間空室の状態で置いておくことにもなりかねません。
そこで、私たちはふたつのアクションを起こしています。
ひとつめは、前橋でチャレンジしたい方々に賃貸で入居してもらうことです。入居希望者も街のビジョンに共感していることが重要なので、自分たちから直接オーナーに “こんな方がいるんですが” と紹介するようにしています。
ふたつめは、AirBNBでの運用です。これは2024年4月から新しく始めるのですが、年間180日間を上限に貸出し、家具のセレクトからAirBNBの登録、予約管理、清掃まで、すべてこちらで担っていく予定です。
このプロジェクトはまちづくりなので、利回りだけを気にされる方はご期待に添えずお断りすることもありますが、とにかく前橋を応援したいと思ってくださる方にご購入いただきたいですし、賃貸でもここをきっかけに何かを芽吹かせたいと思っている方に入っていただきたいですね。
AirBNBで泊まりに来ることもできますので、まずは一度現地へお越しいただけるとうれしいです。