価値観が変化する時代。前橋が面白い
2022年頃、GAという建築雑誌の企画で「JINS」創業者の田中仁さんと対談させて頂き、せっかくだから一緒に何かやりましょうということで依頼を受けました。物件は、前橋市の中心市街として老舗店舗が軒を連ねる、前橋中央通り商店街に位置しています。
田中さんは出身である前橋の活性化を目指し、建築家の中村竜治さんが設計した「GRASSA」や、長坂常さん設計による「なか又」、永山裕子さん設計による「月の鐘」など、ほかにも中央通り商店街の空き店舗の不動産を購入し、様々な建築家にリノベーションを依頼されています。今回は数年前に廃業し、空き家になった藤屋洋品店を購入されたということで、まず一緒に見学に行き、プロジェクトがスタートしました。

▲リノベーション前の藤屋洋品店。かつては大きめサイズの婦人服を扱う商店街の洋品店だった。
店舗の上に住まう。各フロアの用途をそのまま継承
物件は4階建ての鉄骨ビルで、1-2階は婦人服を扱う店舗、3階と4階に1世帯ずつ住宅が入っていました。前橋市内で別の建築家さんが手がけたシェアハウスが好評だったことから、プライベートな居住空間が小さく、共用部分が広いシェアハウスは現代の若者にフィットしているのではと、今回も3-4階はシェアハウスを作ることになりました。
1-2階はテナントとして、現在前橋まちなかエージェンシーで働かれている小澤亮太さん(30)が、ブックカフェを開業される予定です。リノベーション後の名前は未定ですが、かつての旅館の名前を残している「白井屋ホテル」のように、今回も名前を残すことになるかもしれません。

▲1階店舗部分の完成イメージ。既存ビルの骨格のみをスケルトンで見せ、木の家具が入る予定。

▲完成予想図。既存建物の躯体を活かし、介入を最小限にしたラフなつくりが特徴。 建物の外壁にはほとんど手を入れていない。
新旧の素材を織り混ぜ、新たな価値を創造
既存をなるべく残しつつ、最小限に介入することを目指しました。一般的に新しい壁や天井、床などを作って何でもピカピカにしてしまうと、古い建物をリノベーションする価値は薄れてしまうことが多いため、なるべく活かせるものは活かし、その中に『木の箱』や前橋の象徴として再開発で用いられている『レンガ』を用いるなどして仕上げています。
使い方や種類、場所は異なりますが、他の建築家のプロジェクトや街路のリニューアルでも、共通してそれぞれのデザインの中に『レンガ』を用いることが、田中さんのリクエストでした。

▲躯体剥き出しの空間をがらんどうで使うことを検討していた3階部分の初期案。さまざまな議論の末小さな部屋を複数配置するシェアハウスとすることになった。

▲3階シェアハウス部分の完成イメージ。


▲永山裕子設計による「月の鐘」の店舗。他の店舗と共に前橋の歴史の象徴とも言えるレンガをデザインに用いている。
生命体のように、進化し続ける街の一部になる
お話を頂く前から家族で「白井屋ホテル」に宿泊するなど、実際に前橋に足を運んだことはあったので、面白いプレイヤーたちが自然と集っているのを感じていました。様々な建築家による店舗改修のプロジェクトに加え、友人でもある成瀬・猪熊建築設計事務所が赤城公園のプロジェクトに携わっていたり、行くたびに前回はなかった建物が出来ていて、常に変化し続けています。
前橋は、赤城山をはじめとする豊かな自然や公園にも恵まれ、街としても面白く、古いものが残りながらも新しいものやお店がどんどん増えていて、東京からも近い。それは都市として非常に高いポテンシャルを秘めています。田中仁さんらが進めているまちづくりの成果がどのように出るのか、これからが本当に楽しみです。シェアハウスには、そんな変化を楽しみながらも、新しい前橋を作っていく気概のある若い方が集まると良いですね。